お知らせ
2023年05月03日
6年目に入りました。
みちくさ作文クラブは、おかげさまでこの5月で6年目に入りました。
ここ数年はお子さんたちの文章を添削する一方で、私自身、文章を添削してもらっていました。私の場合、見てもらっていたのは英語の文章でした。コロナ禍で「やり直し英語」を思い立ち、英検受験の準備として英文の添削を受けていたのです。おかげさまで昨夏と今春の2回、英検1級に合格することができました。
このときの学習を通じて、ふだんから受講生のみなさんにも言っている「だれにでも伝わる文章を書くこと」の大変さを改めて感じました。まさに、言うは易し、です(笑)。同時に、そうした苦労の楽しさ、つまり、伝わる文章にするために試行錯誤する楽しさも再確認できたように思います。
そして、私がこの経験を通してなにより痛感したのが、「自分の頭で考えることの大切さ」です。
英検1級には、1次の筆記試験を経て2次の面接があるのですが、この面接では、受験者は与えられたお題について即興でスピーチをし、その後、そのスピーチについての面接官からの質問に答える必要があります。このうち、スピーチについては繰り返し出題されるお題もあり、いわゆる“過去問対策”で対応できる部分もあるのですが、このとき自分なりに考えてスピーチを用意しておかないと、質疑応答のパートでうまくいきません。たとえば、どこかの問題集に載っていた模範解答を丸暗記したスピーチを披露すれば、面接官はその内容をもとに質問をしてくるので、そのスピーチについて一度でも考えたことがなければ、具体的なことが言えなかったり、スピーチの内容と首尾一貫しないことを答えてしまったりしてしまう可能性があります。そうすると面接官に、「この人はお題についていったいどんな意見を持っているのだろう?」と思わせてしまいます。つまり、自分の考えが相手に伝わらない、ということになってしまいます。
いっぽう、たとえどんなにつたない意見であっても、それが自分で考えたものであれば、質問にしっかりと答えることができます。不思議なことに、そうやって自分自身の考えを伝えようとしているときは、たとえとつとつとした英語であっても、面接官はときにうなずきさえしながら、こちらの言っていることに耳を傾けてくれます。なぜなら、質疑応答でおこなわれていることは、まさに会話そのものだからです。会話では、相手はこちらの言葉の使い方やしゃべりのなめらかさももちろん聞いていますが、同時に、「この人はどういう考えを持っているのか?」ということにも注目しています。それがわかったとき、コミュニケーションは成立します。
私のこの経験から言えるのは、相手が日本人であれ外国人であれ、だれかとコミュニケーションを取るときは自分の考えを相手に伝える場面が必ずあり、そのためにはまず、自分の頭で考える必要があるということです。ある場面を想定して“模範解答”を暗記していても、相手や状況や時代によって場面はどんどん変化するので、その解答があてはまらないことも多いです。でも、自分で考える力を鍛えてさえいれば、いつでもどこでもだれに対しても、柔軟に対応できることが増えていきます。
みちくさ作文クラブでは、そういう力を鍛えていきます。課題では常に、「あなたはどう思う?」「そう思うのはなぜ?」といった質問が投げかけられます。どこにも正解のない、自分で考えるしかないこうした質問について、生徒のみなさんはときになやみながらも考えぬき、毎回自分なりの答えを書いてきてくれます。そういう練習を続けていくうちに、はじめはぎこちなかった解答や作文の言葉が、だんだんと生徒さん自身の言葉になっていきます。そのお子さんならではの発想で、そのお子さんらしい言葉づかいで、そのお子さんにしか書けない内容ができあがっていきます。自分の頭で考えるということを続けた成果は、このようにはっきりと形になってあらわれます。
子供の頃に身につけた「自分の頭で考える力」は、大人になってもきっとその人の支えとなってくれるはずです。今後ますます多様化する社会の中で、他者とよりよい関係を築くためには、おたがいをよく理解することが欠かせません。そのときに相手から「あなたはどう思う?」と聞かれて、自分の意見がしっかりと言えれば、そこから相互理解のためのコミュニケーションが始まります。そうしたコミュニケーションを通じて、同調でも迎合でも依存でもない、風通しのよい個と個の関係が築かれていくはずです。
こうした、精神的に自立した未来の大人が1人でも増えるよう、そしてそのために必要な「自分の頭で考える力」をお子さんたちが身につける一助となれるよう、みちくさ作文クラブは6年目も尽力してまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
みちくさ作文クラブ 主宰・講師
野坂史枝